ずいぶん前に若い頼りになる会員さんが、私の拙い絵を入れてくれ、下準備をしておいてくれたのですが、人間とはやっかいなもので、なかなか着手する気が起きず、ようやく機が熟してくれたのでしょうか、めりめりとやる気きが起こり、今日九月二日ですから約三か月目に火がついたわけです。
 「会としての有機の里の定義」というカテゴリーを作ったのは、どんな言葉でもそうですが、有機の里という言葉をきいて、百人が百人百様の考えをもつだろうと思ったわけです。それは、見えないだけに永遠にわかりません。その見えない大事なところを透明にして、納得しあってこそ、真の合意形成が成立し、会の確固たる基盤ができていくと信じます。というのは、個人的なことになりますが、私は「四十にして惑わず」どころか四十を過ぎても「人間とは」という人間の定義がわからず、精神的危機に陥ったからです。その一番の核のところがわからないと、すべてが崩れていきます。
 まず、人間の定義ですが、私はどん底に落ち、必死にもがき、向かい合ったお蔭で、宮澤賢治の数行の詩の中に、真に納得する答えを見つけ、再生の道を歩むことができました。
 「私という現象は、仮定された有機交流電燈の一つの青い照明です

 特にこの一節が、その後の私の人生の明暗を分けました。人間は一人一人が、お互いにこういう存在なのだという気持ちを持ち合えば、許容し合えるのではないかと思います。人間は、たまたまのところに生を受け、現象という形で己を外に明らかにしているが、最も奥深いところに天とつながっている魂を有し、だれとでも血の通った関係をもちあいながら、それぞれの光を放っている存在なのだと認め合い、尊重しあうこと。
 この人間定義に基づいて、ゴルフ場建設反対運動も、対決ではない対話の姿勢で臨みました。そして今では、胸襟を開いて、共生しています。
どんな人でも、相手の可変性を信じること。イワンの馬鹿のように、ひたすら無欲に、全体の幸を思い、行動すること。賢治哲学と私は称しているのですが、そこから私が学んだことです。「時は金なり」と申しますが、人間は有限な存在ゆえに無限と対比して時間というものがあり、私にとって「時は命なり」で、生きている時間軸の中で、命が燃焼しているという連続した実感が、最も重要だと思っています。「自我の意識は、個人から集団、社会ひいては宇宙へと次第に進化する」という賢治の言葉があります。自分の歩いてきた後ろを振り返って、的を得ている彼の洞察力に感銘を受けます。
 私の歌に「人間ってなんだろう、自分ってなんだろう」で始まる「たんぽぽのうた」という題名の歌があるのですが、まさにその大事な見えないところが、不透明でないがしろにされているところが、現代の不幸というかさびしさではないでしょうか。現代社会の様々な病理現象の蔓延は、まさにここに根源ありと私は思っています。この皆が気にはなっていながら、なんとなくタブー視されているこの普遍的なテーマに、彼独自の表現方法で取組み、提示し、のちの世に残していってくれた一人が、宮澤賢治です。
 そこで、先ず人間についての定義を、もちろんそれも各々あって異論があるとは思いますが、一応私の賢治観から提起させてもらって透明にしたうえで、会の目指している有機の里の定義にシフトしたいと思います。
 賢治の「ポラーノの広場」という作品の中に、次のような詩があります。

     まさしき願いにいさこうとも 銀河のかなたにともに笑い
     なべての悩みを焚き木と燃しつつ はえある世界をともにつくらん
 
 この詩を読んで、「究極の共有できる目標にたどりつくまで、火花を散らして本音で話し合って、それをつかんだらともに悦び、、目標到達までに降りかかってくる様々な困難に、知恵や力を結集して事に当たり、すべての人が関わって納得する世界を構築していく」というように、私は感じるのですが、皆さんはいかがでしょうか。
 「有機の里」というと、有機農業の里というだけの限定された意味にとらえる人もいると思います。もちろんその意味も含まれますが,有機交流電燈である一人一人が、ポラーノの広場ならぬ自生農場に集まり、それぞれの個性を発揮し、つながりあって、共通の理想の世界を組み立てていくプロセスの途上にある里とでもいいましょうか。
 あくまでも人間には完成はありません。賢治曰く「永遠の未完成 これ完成である」から。

有機的」という言葉は、英語で「オーガニック」といいますよね。その形容詞を動詞にしたものが「オーガナイズ」です。日本語にすると「組織する、編成する、とりまとめる、体系づける」などの意味があります。
 個人的な話で恐縮ですが、老年期に入り、残された時間が少なくなっているのは当然なので、人生を全うし大往生するには、一日を一生と思
い、時間を大切に刻もうと、以前より一層考えるようになりました。個人的な事も社会的な事も、優先順位を決めて、組み合わせ、組み立てて一日を過ごす。この日々の積み重ねが、明日の元気な一日を約束してくれると体験から確信します。有機の里創り研究会の面々が、老若男女を問わず、有機の里創りに向かって、全体の組み合わせ、組み込み、組み立て、体系づけなどの仕組みつくりにに、各々が自分の役割を自覚し、自由に参加していくことが、個の自己実現と、社会のあるべき姿の実現を同時に実現していくことにならないでしょうか。
 その意味で、先般坂東市長に「バイオマスタウン構想」実現について、市民の千名以上の声を集めた署名を提出する際、添付した会の創意表明の文を載せますので、共鳴して頂けたら心強いです。
 
 茨城県坂東市                 
市長 吉原英一 殿                平成23年5月20日
                    NPO法人
                     猿島野の大地を考える会

私達の会で、「バイオマスタウン構想」実現について、市民の声を集めました署名用紙を提出するにあたって、一言述べさせて頂きます。
私達の会は、坂東市が住民に呼びかけたプロジェクトの一つ「農業創造プロジェクト」に参加したお蔭で、今後の農業の在り方を考えるきっかけを与えられました。そして、現在廃棄物化している未利用の、もったいない資源にもなるバイオマス(生物体量)をうまく循環させることができる「バイオマスタウン」の実現を国が勧めている「バイオマスタウン構想」の存在を知りました。しかし、これまでに三百以上の自治体が、構想は国で受理されたものの、現実の成功例は少ないと聞き及びました。
化学肥料の多用による土壌の無機化、農薬による耐性菌の増加、両者の地下水への浸透、連作障害などなどの問題に加えて、今回の震災による放射能汚染が、農業の未来を更に暗くしました。
私達の会は、この厳しい現実を見据え、身を引き締めて、次世代のために、新たな時代を創っていこうという決意で、この坂東市を「微生物循環によるバイオマスタウン」にしようと、部会「有機の里創り研究会」を発足させました。
幸い、私達の会で取り組んでいる微生物は、放射能汚染を減少させる可能性を秘めています。そしてバランスのとれた微生物の組み合わせにより、持続的で豊かな土壌が約束されれば、それに勝る次世代への贈り物はありません。
有機の里創り研究会」は、「猿島野の大地を考える会」の基本理念に基づいて、「バイオマスタウン構想」と並行して「微生物循環によるバイオマスタウン」の実現に向けて、行政と連携して、実験、検証を踏まえながら、一歩一歩着実に進めていくことを希望しています。
以下に、私達の会「猿島野の大地を考える会」をご理解頂くために、会の定款並びに基本理念を載せます。

定款

 地球的規模の環境悪化や世界で勃発している地域紛争等の現状に危機感を抱き、宮澤賢治的世界観に立ち、ユニセフエコショップ事業やEM普及活動という具体的展開を通して、このような世界的規模の問題に対しても、自分の足元から根本的に解決する路があることを社会に示し、平和的な輪を広げていくことを趣旨とする。

基本理念

   自由   会の定款に沿って、各々個性の優れる方向に自由に手を挙げて役割分担をする
   平等   一人一人が魂の保持者であるという点で尊重し合う
   行動   行動することで、一人一人が真の元気、安心を得られ、行動の結集が希望を実現に近づける
   非政治  全てはその時その時、是々非々で判断する
   非営利  会の定款にある通り、世界平和や社会正義に寄与する

上記の会の部会として、このたび「有機の里創り研究会」が発足しました。
発足の動機は、坂東市が「バイオマスタウン構想」作成の暁には、長期目標として掲げてほしいと私達の会が要望している基本理念「次世代のため、元気、安心、希望を与える住民参加型の有機の里創り」を、猿島野の大地を考える会の基本理念に則って、具体的に円滑に実現するためです。
 そして、「有機」とは「生命」を意味し、微生物から植物、植物から動物、動物から廃棄物、廃棄物から微生物という限りなき循環を指します。又、同時に人間同士の血の通った温かいつながりも意味します。即ち、有機の里とは全ての生命がつながり、重なり、拡がり、組み合わさり、組み立てられた、宮澤賢治言うところのイーハトーブ、理想郷を意味します。
 今回の東日本大震災で、日本のみならず世界中で、人類のこれまでの文明の在り様に猛反省を迫られる事態に遭遇しました。地震津波原発事故という連鎖的天災、人災の極限状況は、世界全体が人類存続の危機を感じると同時に、その真只中に置かれている被災地の人たちがいつ終わるともしれない不安と恐怖の中にあっても辛抱強く節度、知恵、潔さをもって支え合いながら生きている姿勢や、日本中、世界中から温かい支援の輪が自然と湧き広がっていることに、私達が目指す有機の里の原点を見る思いがします。

          有機の里創り研究会の活動方針

一、 バイオマスタウン構想の実現を、老若男女あらゆる世代の自主的な住民参加で、微生物による良質な堆肥化をローコストで
           簡素に実現すること。
二、 次世代に持続可能で安全な大地を残すために、「民農官学」という坂東市独自の新ししい有機的な関係を構築し、微生物による
           エコ(エコロジカルでエコナミカルな)農法を確立すること。
三、 上記の活動を様々な方法で外へ発信し、農家民宿制度や耕作放棄地活用制度などを作り、坂東市での新規就農者の育成や
           定着をはかること。
四、 坂東市にある農業大学校有機農業科をもうけること。

いつこれらの願いが実現するかは、神のみぞ知るですが、宮澤賢治的人間観に立って、あきらめることなく、ゆっくり楽な気持ちで、でも真剣にやっていこうと思っています。ご賛同をお待ちしています。
 最後に、私の人生の結論ともいうべき自作の歌の歌詞をもって、終わりといたします。

                      年をとらない玉手箱

    一、 気づかないだけだよ  誰もが持ってるたましい
       天から 唯一の贈り物
       ここに元気のみなもとあり ここに元気のみなもとあり
       年を取らない 玉手箱
       気づかなきゃもったいない 気づかなきゃ生まれてきた甲斐がない
       生きてる間に掘り起こそう 掘り起こそう

    二、 気づかないだけだよ  誰もが持ってるたましい
       天に通じる受話器だよ
       ここに正義のみなもとあり ここに正義のみなもとあり
       年を取らない 玉手箱
       気づかなきゃもったいない 気づかなきゃ生まれてきた甲斐がない
       生きてる間に出会おうよ 出会おうよ